カテゴリ:かけっこ【2007更新停止】( 35 )

スプリント ストライド? ピッチ?

そろそろ研究の道からドロップアウトするので、今後深くスプリントのことを考えなくなる前に,自分なりの経験をまとめてみようと思う。

「ピッチは幼児もオリンピック選手も変わらない。」
「疾走速度と相関があるのはストライドだ。」
「ピッチ能力は筋組成(遺伝的要因)に依存する」
「ピッチとストライドは反比例の関係にある」

スプリントではよく使われる常套句だ。いわゆる一般論。

自分が知るかぎり,スプリントトレーニングの方向性はピッチを高めるか,ストライドを高めるかの二者択一で,上に挙げた常識から,ストライドを高くすることに重点を置くという結論が導き出されている文献をよく目にする。 例)「運動会でいちばんになる方法」

しかし,最近上に挙げたような常識は正しくないのではないかと思うようになってきた。

というのは,

①身長が大きければストライドが大きくピッチが遅いという反比例の関係は成り立っても、ストライドを伸ばしたらピッチが下がるという反比例の関係は成り立たないのではないか。

本当にピッチとストライドが反比例の関係にあるのなら,ストライドを伸ばすトレーニングをしたらピッチは下がるはずである。しかし,ピッチが変わらずにストライドが伸びているということはすなわち相対的にピッチは高くなっているということではないか。このことは斉藤ら(1995)がピッチとストライドの指数を用いて明らかにしている。

②ストライドと速度の相関があるのは,個人間(違う人同士)の比較であって,実際にトレーニングして疾走速度が上昇した場合,ピッチが高くなっている場合が多い。むしろストライドが伸びたという研究はあまり見かけない。

③ストライドは成長して身長が伸びれば勝手に伸びる。
※ストライドの身長比でも一流選手は高い値を示すので,やはり一流選手のストライドは大きいのは間違いない。

①を補足説明すると,スプリントの接地動作はSSC活動によって行われる極めて短時間の運動でおそらく接地時間を意図的に長くして力積を大きくすることは困難である。

つまり長距離走のように接地時間を長くして力積を大きくすることによってストライドを伸ばすことや接地時間を短くしてピッチを高くするというのは不可能だと思われる。

そうではなく,限られた接地時間により大きな力を発揮することによってストライドが獲得される。そのためには,接地直前の脚の速度が速い必要があるので,ストライドを大きくすることは結果としてピッチを速くすることにもつながるのではないか。


ごちゃごちゃと書いたが,自分がもしコーチングするとすれば,ピッチを速くすることでも,ストライドを伸ばすことでもなく,限られた時間により大きな力を地面に伝えることに重点を置くだろう。

そうすれば,ピッチもストライドも伸びるというのが自分の立場だ。
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by taji-kistan | 2006-12-27 19:45 | かけっこ【2007更新停止】

理想のスプリント・キック動作

なかなか言葉だけで説明するのは難しいが、過去のデータから類推するに以下のようになる。

・振り戻しが始まって,接地寸前から接地瞬間くらいまでにものすごい速さで脚を動かして身体を加速させる。

・接地の後半にはもはや蹴らない。地面についてからキックするイメージではちょっと遅すぎて,それでは一流選手のキック動作とは大きくかけ離れた動きになってしまう。

~ここからは一大学院生の勝手な解釈、好き勝手言います~
脚を棒のように動かすという指導がたぶん流行っていると思うが,そうすればたしかにコンパクトな動きができるが,それは加速力を生み出す主な要因ではないと思われる。

一流選手は,接地期の前半までにすでにものすごい加速力を生み出しているので,接地期の後半に余計にキックする必要が無い。キネマティクス的特徴でいえば,脚速度とほぼ同じ速度で股関節が動いている。

でも、接地中にキックしようとしている選手は,接地期前半の段階で加速力を生み出せず(特に股関節の伸展速度が不十分),接地期後半に膝の伸展や、足関節の底屈、股間節の更なる伸展を行ってそこで加速しようとしている。要するにキックの質が違う。

接地期後半に膝の屈曲や底屈の大きい選手は脚が流れ気味の動きになり、リカバリーがどんどん遅れてくる。

一流選手はカールルイスをはじめとしてよく腿が上がっている(それ故に腿を高く上げるという指導はなかなかなくならない)が、それは脚が流れないから,高い位置まで腿が戻ってくるのだ。

岩本敏江選手が腿上げをやめたら腿が上がるようになったというのは有名な話だが,膝屈伸型のキック動作をやめた結果,脚が流れないようになったことが大きく影響したと考えられる。

脚が流れているのに腿を高く上げようとしたら,滞空時間は限られているので接地準備(いわゆる振り戻し)ができる時間は不十分なものになってしまう。それだったら,腿が上がらないなりにしっかり接地準備を行った方がよいと考えられる。

同じ理由で膝先振り出すという動作も余計だ。伊東浩司選手がブレイクしていた頃にやたらと膝下を振り出す選手を多く見かけたが,明らかに間違っていた。伊東選手の場合膝下はムチがビュンとしなるような動きをしていたのに対し,身近なニセ伊東浩司は大腿四頭筋を使って文字通り振出していた。

相反神経支配で四頭筋が緊張すれば,大腿後面の筋肉は緩むので,その後大腿後面を使って行われる脚の振り戻し動作が遅れることは言うまでもない。

それから,接地期前半の段階で加速力を生み出せない選手がただ脚を棒のようにして動かしてもリカバリーは速くなるけれど(それと,過度の膝の屈曲や足関節の背屈が抑えられてエネルギーのロスは少なくなるかもしれない)そもそもの加速力は増さない。(ちなみに最近では,膝を伸ばさないどころか、曲がりながらキックする動作が良いとさえ言われていたりする。)

大事になってくるのは、積極的な接地動作だ。接地するまでに脚が速度を持っていることである。接地してグリップ感があったと思った瞬間にはひきつけ動作を始めるつもりでいい。ドロップジャンプの接地時間が短い、かつ高く跳ぶ時の感覚だ。

積極的な接地は,かの有名なトム・テレツ氏のプッシュ動作の指導でもある。真下に地面を押すということは、接地に先駆けて地面に向かって脚を素早く動かすことだ。結果として接地時には脚が高い速度を得ている。

接地準備を素早く行うことに付随して,回復脚の腿の引き上げも素早く行う必要がある。いわゆるはさみ込み動作だ。

接地した時の逆脚の膝の位置がどこにあるか、これは重要な要因であるように思われる。このポジションが過度に身体の後方にある場合,接地準備を開始する時に十分腿が引き上げられておらず振り戻し動作が中途半端になる可能性が高い。

かなり速い選手の中にもこのポジションの悪い選手がいるが、その選手は腿の引き上げの速さでポジションの悪さをカバーしている。

でも,その選手の多くはケガの危険と隣り合わせである。ギリギリのタイミングで接地を始めることになるので,なにかのきっかけでバランスが崩れると接地が身体の前になりやすく肉離れを起こしやすいのではないかと考えられる。

具体的な名前を挙げるとすれば,インカレチャンプの新井智之、佐分利慎也,国体チャンプの江里口選手などだ。彼らの走りは接地時の逆足の位置が常識的な位置よりも後ろにある。全員が10秒3台で走る優れたスプリンターだ。しかしながら、3人とも大きなケガを経験していることも忘れてはならない。

グダグダ書いたけど、なにかヒントになるようなことはあったかな。あんまり無いかな…

その道の方が見てくださっていたら何か意見をもらえるとありがたいです。
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by taji-kistan | 2006-12-22 01:45 | かけっこ【2007更新停止】

アサファ・パウエル【Asafa Powell】

最近の記録とその歩数。
9"77...1.6...45~46-05年世界新 
9"77...1.5...45+  -06.6.11
9"85...0.1...45~46-06GL Paris
9"86..-0.5...45~46-06GL Berlin
9"89...0.9...45~46-06IAAF Final

※45+は45歩の接地中に,45~46は空中でゴールしている。全部VTRから目測しているので厳密ではない。

風による変動があるものの、一流選手のピッチ・ストライドは精密機械のように確実だということが分かる。朝原選手が以前「一歩目失敗したらレースが全てダメになる」というようなことを言っていたのも頷ける。レースで実力を出す=自分のレースパターンで走りきるということなのだ。

自分のレースパターンの変動を見れば,シーズン内であればレースの成功失敗,シーズンごとであれば技術の上達具合がよく分かる指標だと思う。シーズン内にあまりにも歩数が違いすぎるのは技術が不安定であることになるし、シーズンを重ねてもピッチストライドともに変化していなければ進歩できていないことになる。もっともだいたいのスプリンターはこのような分析は当たり前のように行っているので、自分が何歩で100mを走るかくらいは最低知っておきたいところだ…と指導者じみたことをのたまってしまった(汗)

比較対象
9秒77(非公認)のガトリンは41~42歩
9秒78(これまた非公認)のモンゴメリーは48歩+
9秒79のグリーンは45~46歩
9秒79(非公認)のベン・ジョンソンは46~47歩
9秒84のベイリーは44歩+
9秒86のカール・ルイスは43歩+

10秒00の伊東浩司は44~45歩
10秒02の朝原宣治は46歩+
10秒03の末續慎吾は46~47歩

100mの平均ピッチを比較すると、末續の10秒03時の約4.63Hzとパウエルの9秒77時の約4.61Hzがほぼ同じピッチだ。190センチの大男が末續と全く同じピッチで走っているのだ。そりゃー勝てるはずがない。

あとはいろいろと見比べて解釈してほしい。
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by taji-kistan | 2006-12-22 00:41 | かけっこ【2007更新停止】

Biomechanics X-Bより

Temporal and kinematic analysis of swing leg for elite sprinters
Li Chengzhi ,Huang Zongcheng

緒言
running cycleは2phaseに分けられる。 
running cycle…走りの1サイクル 接地してから同じ足が再び接地するまでの2歩
phase…局面

1.support phase (支持局面)   他には接地局面とか
2.swing phase  (スイング局面) 他には回復局面とか

過去の研究ではエリートスプリンターの支持局面とスイング局面の割合は1:3.5だった。
(つまり支持局面が約22.22%、スイング局面が約77.77%)

中略

本研究の目的はエリートスプリンターのスイングレッグの重要なキネマティック的な要因を明らかにすることだ。

方法
10秒0台~10秒1台の3人のエリートスプリンターを用いてスイング脚のキネマティック的分析を行った。

イベント分け
IFO… ipsilateral foot takeoff  同側の足の離地
CFS… contralateral foot strike 逆側の足の接地
CTO… contralateral foot takeoff 逆側の足の離地
IFS… ipsilateral foot strike 同側の足の接地

結果
・股関節の屈曲時間は伸展時間の2倍である。
・膝関節の屈曲と伸展の時間の割合はほぼ等しい。
・股関節の屈曲角速度は伸展角速度よりも顕著に大きい。
・膝関節の屈曲角速度と伸展角速度はほぼ等しい。
・膝伸展の最大角速度は股関節が屈曲から伸展に変わる瞬間でCTOと同時に起こる。
・脚の正の加速度はIFOの直後に最大になる。
・脚の負の加速度は逆足接地中に起こりCTO直前に最大になる。
・股関節が回復中に最も速く動いている時(身体が鉛直線を通過するタイミング)に膝は最もよく 屈曲されている。そしてこのとき脚の慣性モーメントは最小になっている。

結論
スイング局面における脚の加速度曲線はスイング脚の効率を調べる良い指標である。

寸評
 膝を曲げれば慣性モーメントが小さくなり脚を素早く動かすことが出来るということを述べている。だいぶ昔の報告なので、今となっては当たり前のことかもしれない。
 せっかく10秒前半の選手のデータだったが,数値はグラフが載せてあるだけで具体的数値が分からないのは残念だ。
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by taji-kistan | 2006-12-18 06:19 | かけっこ【2007更新停止】

スピードと力の関係

ザチオルスキー著「スポーツマンと体力」(1972)
II・4スピード養成に関連した筋力,技術トレーニングより

外部抵抗が小さくなると速度が上がって発揮される力が弱くなり、外部抵抗が大きくなれば速度が遅くなり発揮される力は大きくなるという有名な双曲線と共に、ホーホムート(1962)が行った実験の結果が紹介されている。

ここで重要なのは、速度が最小になる最大筋力を鍛えても最大速度は変わらず、
逆に、発揮筋力が最小になる最大速度を鍛えても最大筋力は変化しないということだ。

その例として、投擲物の重い砲丸投げの投擲距離は筋力に比例するが投擲物が軽いヤリ投げ(砲丸は約7.25kgVSヤリは約800g)では最大筋力と競技記録との間に顕著な関係がみられないと述べている。

また、筋力は上がりやすいがスピードを上げるのが難しいということを、ウェイトリフティングと100m走の世界記録の30年間での伸び率(WL20~30%VS100m2%)を挙げて説明している。

ではスピードを上げるためにどうしたらいいかというと、正規の条件での運動パターンを狂わせない程度の重さで最大の速度で運動を行うこと(=動的筋力トレーニング)である。

例えば、ヤリよりは少し重い砲丸をヤリ投げと同じ要領で投げることなどである。

同様に水泳では、陸上でうつ伏せになりチューブの抵抗をかけて水中のストローク運動に似た運動を行ったところ、筋力の増加と水泳速度との間に相関がみられたという。

このような運動は技術の感性と体力が養成されるため、ジヤチコフが「同時促進法」と名づけている。

(引用ここまで)

短距離走でいうならば、負荷のないエアバイクをどんなにフル回転させても、逆にめちゃくちゃ重いソリを一生懸命ひっぱっても実際の走りの速さには結びつかないってところか。

タイヤ引きでは、ちょうど重さが自分に合ってた人は記録が伸びるけど、重すぎたり軽すぎたりするとあんまり効果がない。うちの高校でもタイヤ引きリレーなんてやってたけど、せいぜい男女で重さを変えてたくらいで、最適な負荷が選択されていたとは言えないな・・・

ウェイトトレーニングでちょっと軽い重さでできるだけ速く動かすトレーニングをするのは、まさに今回紹介したことを実践していることになる。

筋力を上げて、次に速度を上げたらいいのではないかと思いがちで、実際に冬期トレーニング等でそういうトレーニング方法を行っている人も多いが、盲点がある。

せっかく筋力をアップさせてもその間に速度は落ちつづけ、落ちた速度を元の水準まで戻してさらに引き上げているうちに今度は筋力が落ち、結果的にどちらともあまり変わっていないという事態に陥る可能性があるということだ。筋力トレーニングの効果がなくなる前に速度の養成をしなければ意味がなくなってしまう。

あるいは、あんまりこの言葉使っているのを聞いたこと無いけど「同時促進法」を用いて、筋力・速度ともに養成していく方法をとることになるわけやね。


しかしながら、旧ソ連の研究者たちはひたすらに実験を繰り返して、こういう結果になりました、ということを膨大な量積み上げてきた。

超回復というスポーツ選手になら有名な話もそうだし、今回の話でも、負荷なしでトレーニングした群と最大負荷でトレーニングした群と、運動が目的とする動作と変わらない負荷でトレーニングした群にわけ、実際にやってみたわけである。

そしてその恩恵を今あずかっているわけだ。

過去の実験の中には今だったら倫理面でひっかかってできないものもあるし、とても一流選手を使ってそんな実験させられねーって内容のものもある。

当時の勤勉なソ連の研究者に感謝である。
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by taji-kistan | 2006-11-14 16:48 | かけっこ【2007更新停止】

1987年世界陸上男子100m決勝

1.カール・ルイスUSA9.93       +0.9
2.レイモンド・スチュワートJAM10.08
3.リンフォード・クリスティーGBR10.14
4.A・コバッチ HGR 10.20
5.V・ブリズギンURS10.25
6.L・マクレー USA 10.34
7.P・パボーニ ITA16.23
  ベン・ジョンソンCAN9.83 ※ソウル五輪のドーピング違反により無効

この頃は全世界がルイスVSジョンソンに湧いていた。このレースも2人の対決に興味は集中していたことだろう。

レースはジョンソンの圧勝といえる内容だった。スタートで飛び出してそのまま独走。ドーピングの問題はここでは置いておいて、なんとも気持ちいい勝ち方だ。

ジョンソンがすさまじいスタートを見せる。いわゆるロケットスタートが炸裂した。しかしルイスもこの時は抜群のスタートを見せた。後半型のスイスが前半ですでに上位におり、50mではジョンソン以外は前にいなかった。

50m時点で主役はジョンソンとルイスにしぼられていた。
後半に強いルイスなら逆転可能な差にも思えた。

いつものようにルイスが抜き去るのか?しかし差がなかなか縮まらない、
80mを過ぎてもまだルイルが伸びてこない…もしかしたらこのままか?

そしてとうとう差が縮まらないまま9秒83でジョンソンがゴール!!世界新!!!(後で幻に)

ルイスも9秒93の好タイムでゴール。(後のジョンソンの失格により、この時点でカルビン・スミスと共に世界記録保持者になる)しかしながら、最後は少しあきらめたようにも見えた。



レース展開とは関係ないが、この頃は黒人に混じってソ連、ハンガリー、イタリアの選手が決勝に残っていることも興味深い。91年大会以降は、決勝が黒人で占められることが多くなり、世界大会の100m決勝で白人が複数走った最後の大会となった。
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by taji-kistan | 2006-11-10 18:39 | かけっこ【2007更新停止】

91年世界陸上男子100m決勝

カール・ルイス            9秒86 (+1.2)
リロイ・バレル             9秒88
デニス・ミッチェル          9秒91
リンフォード・クリスティー      9秒92
フランク・フレデリクス         9秒95
レイモンド・スチュワート       9秒96
R・ダ・シルバ            10秒12
ブルーニー・スリン          10秒14

東京で行われたため多くの日本人がこのレースを見たことだろう。世界新記録樹立の歴史的瞬間は当時大きな話題となった。スーパースター、カール・ルイスが見事な勝利を収めた。9秒台で6人がゴールするというハイレベルなレースだったことでも有名だ。

レースは、ミッチェルとスチュワートが飛び出した。バレルもまずまずのスタートをみせた。それにクリスティー、フレデリクスあたりが続き、その後ろにカール・ルイスという形で進んでいく。下位の2選手は前半から上位争いに一度も絡むことなく終わってしまった。

序盤から中盤にかけては、ミッチェル、スチュワート、バレルの3人が先頭を引っ張った。

50m地点でルイスは6番手、先頭から0.07秒の差だ。

60m地点で先頭争いにクリスティーが加わり、フレデリクスがやや遅れてルイスの後方に下がった。

80m地点でついにルイスが先頭集団に追いついた。ここまでがんばっていたスチュワートは60m以降じわじわと失速し、この時点で先頭集団から脱落した。

90m地点、とうとうルイスが先頭に立つ。この時点で、ルイス9秒00、バレル9秒01、ミッチェル9秒02。

そしてゴール、ルイスは最後の10m区間でもバレルを0.01秒離した。


このレースで目立ったのはルイスの40m以降の強さだった。40~100mまでの各10m区間タイムは全選手中トップであった。先頭と最大0.09秒あった差を中盤以降の卓越したスプリント能力で逆転した形だ。

レース後半に前の選手にみるみる追いついていくルイスのイメージを鮮明に覚えている人も多いことだろう。
(データは「世界一流競技者の技術」を参照)

時代が前後してしまうが、93年大会でのルイスは、30m地点でこの時より0.07秒、60m地点では0.13秒も遅れている。

同レースを走ったクリスティー、ミッチェル、フレデリクスがこの時より0.02~3秒の遅れにとどまっていることから、条件面を考慮しても、93年大会でのルイスはスタートの出遅れと中間の加速という二重の失敗をしてしまったことは明らかだろう。

典型的な後半型のルイス、万能型のバレル、前半型のミッチェルが上位に顔をそろえる(ちなみにアメリカのメダル独占)という特徴的なレースでもあった。
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by taji-kistan | 2006-11-05 11:53 | かけっこ【2007更新停止】

93年世界陸上男子100m決勝

リンフォード・クリスティー 9秒87 (+0.3)
アンドレ・ケーソン      9秒92
デニス・ミッチェル      9秒99
カール・ルイス        10秒02
ブルーニー・スリン     10秒02
フランク・フレデリクス   10秒03
ダニエル・エフィオン    10秒04
レイモンド・スチュワート  10秒18

バルセロナオリンピックを制したリンフォード・クリスティーがここでも力をみせ、9秒87の自己ベストで優勝した。ほぼ無風状態で、いい追風が吹けば9秒7台が出たかもしれない。前大会を世界新で制したカール・ルイスは4位に敗れた。

レースは序盤、ケーソンとミッチェルが飛び出すものの、クリスティーがぴたりと付け、60m地点でミッチェルをかわし、80m地点ではこの年の全米チャンピオンであるアンドレケーソンに並び、最後の20mで抜き去った。このときのクリスティーは30m以降の各区間タイムで決勝進出者8名の中でトップだった。

80m~100mは後半型で有名なカール・ルイスも1秒72を記録している。最下位から4人を一気に抜き去りゴールになだれ込む瞬間は迫力があったが、30mで0.1秒、60mで0.14秒クリスティーとの差をつけられ、上位争いにまったく絡めなかった。

2着のケーソンは、80m~100m区間のクリスティーとのタイム差0.05秒がそのまま100mトータルでの差となった。前半から中盤にかけてはクリスティーにも勝っていたが、最後の20m持たなかった。
(区間タイムは93年の陸上競技マガジンのデータを参照)

ちなみにケーソン選手は100m48~49歩の間でゴールする9秒台選手としては非常に珍しいタイプで、マンガみたいな超速ピッチで走っていた。他にはティム・モンゴメリーも似たような感じだ。現世界記録保持者アサファ・パウエルは45~46歩で、ジャスティン・ガトリンにいたっては42歩ちょうどで走りきることもある。世界トップクラスになっても歩数と歩幅の関係は人それぞれといったところか。

3位のミッチェルは、91年大会同様に見ていて気持ちいいほどの飛び出しをみせた、がしかしそのアドバンテージは60mを前にしてクリスティーに逆転されてしまい、60m以降だけで0.15秒の差をつけられた。典型的な前半型失速のレースとなってしまった。

この時に日本から出場した井上悟選手は準決勝で10秒39(8位)であったが、30m地点で決勝進出者中ダントツにスタートの遅かったルイスに0.02秒だけ先行し、60m地点ではまだ最下位であったルイスよりもすでに0.08秒遅れている。クリスティーから比べると実に0.22秒の差だ。この頃は、世界と30mも勝負ができなかったという事実が浮き彫りになっている。
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by taji-kistan | 2006-11-04 17:35 | かけっこ【2007更新停止】

9秒台

2006年9月現在で、人類のうち55人の超人が100m9秒台の領域に到達した。(手動3人含む、追風参考、記録剥奪を除く)

そのうちアメリカ国籍の選手が25人とほぼ半分を占める。

人類ではじめて9秒台を出したジム・ハインズ(9秒95、1968)をはじめ陸上界一のスター、カール・ルイス(9秒86、1991)、通算53回の9秒台をマークし一時代を築いたモーリス・グリーン(9秒79、1999)、現在渦中にあるジャスティン・ガトリン(※9秒77、2006公認は9秒85、2004)などがいる。

その他の国では、ドノバン・ベイリー(9秒84、1996)やブルーニー・スリン(9秒84、1999)、それから55人の中には入っていないが、ある意味伝説のスプリンター、ベン・ジョンソン(※9秒79、1988)を輩出したカナダ。

遅咲きの王者リンフォードクリスティー(9秒87、1993)はじめ4人のイギリス。

現世界記録保持者アサファパウエル(9秒77、2005)他4人の9秒台を輩出したジャマイカ。

ジャマイカをはじめとしてカリブ海の国からはトリニダード・トバゴのアト・ボルドン(9秒86、1998)、バルバドスのオバデレ・トンプソン(9秒87、1998)、SKNのキム・コリンズなど名スプリンターが出てきている。またキューバのシルビオ・レオナルドが1977年に9秒98を記録している。

7名と数多くの9秒台選手を輩出しているのはナイジェリアだ。しかしメダル圏内に入ってくる選手はまだいない。そのほかアフリカ諸国では、フランク・フレデリクス(9秒86、1996)のナミビア、世界大会ファイナリストの常連アブドル・アジズ・ザカリ(9秒99、2005)等のガーナ。

残りは3つの国しかない。

アテネの銀メダリスト、ポルトガルのフランシス・オビクエル(9秒86、2004)
ちなみに彼はナイジェリアからポルトガルに帰化している。

黒人以外唯一の9秒台オーストラリアのパトリック・ジョンソン(9秒93、2003)
この9秒93は水戸選手権で記録され、同レースで末續選手が10秒03で走っている。

2005年のヨーロッパ王者、フランスのロナルド・ポニョン(9秒99、2005)

当然ながら、アジアからは9秒台の選手は出ていない。伊東浩二(10秒00、1998)があと一歩のところまで来たが、惜しくも9秒台到達はならなかった。また南米からも9秒台は出ていない。ブラジルのダ・シルバ(10秒00、1988)が最高である。


追記
おんなじようなことをアト・ボルドンの公式サイトでやってました。決してパクッてはないよ、でもあまりにも似てるな(汗) アト・ボルドンサイトの Hot Track Stats コーナー
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by taji-kistan | 2006-11-02 02:07 | かけっこ【2007更新停止】

デニス・ミッチェル

90年代のアメリカ陸上界に君臨した名選手の一人。身長は175cmと日本人とあまり変わらないため、当時日本人が手本にするのはミッチェルがいいといわれていたこともある。ルイスは188cm、クリスティーは189cmと時のトップスプリンターはかなり大柄だった。

彼の特徴は、なんといっても抜群のスタートだ。10m地点では彼の前に出る者は誰もいなかった。そのスタートを支えていたのが驚異的なピッチだ。圧倒的な回転数であっという間に先頭に踊り出た。

しかも、レース全体を通じてハイピッチで押し切るのではなく、途中からは大きなストライドの走りをしていた。その結果が100mを45~46歩で走りきるというデータに現れている。

これは現世界記録保持者アサファ・パウエル(190cm)とほとんど変わらない。末續選手(178cm)と比べると1歩少ない。(VTRから目測)

91年世界陸上では、60~70m区間の平均ピッチ・ストライドで身長では10cm以上劣るカール・ルイスとほぼ同じ値であった。最高速度もスタートが速いわりに、70~80m地点で出現している。(世界一流競技者の技術より)

ハイピッチかつ大きなストライドを可能にできる技術を持った優れたスプリンターであったといえるだろう。
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by taji-kistan | 2006-10-30 12:52 | かけっこ【2007更新停止】